使用楽器~19世紀ギター

今から200年ほど前、19世紀初頭は「ギター黄金期」「ギター狂の時代」などといわれ、ヨーロッパで大変ギターが愛好されました。その当時の楽器は今でも適切なメンテナンスがされていれば、素晴らしい音色で活き活きと当時の様子を再現してくれます。

こういったアプローチは単に古いものを再生するということではありません。当時の人たちの音楽の聴き方や付き合い方、残された曲の魅力を「新たに」みつけたり、忘れかけていた何かを思い起こし考えさせてくれるような、いわば温故知新の世界で、むしろ現代のわたしたちにとって新鮮な愉しみや喜びに満ち満ちています。

これらの楽器には弦も当時のレシピによって羊の腸や絹から作られた弦を張って演奏します。


 

19世紀のギター(左)とテルツギター(右)
19世紀のギター(左)とテルツギター(右)

ギター(19世紀ギター) 写真左

19世紀ヨーロッパのギターは製作される地域によって大きさや形もまちまちでしたが、おおよそ現代のものよりスリムで弦長も600~630ミリくらいと小ぶりでした。こうした楽器はクラシックギターがスパニッシュスタイルに制覇されるまで作られていました。

現代のギターのような分厚い音は無理ですが、暖かで良く通る音がします。表情が豊かで簡素なエチュードでも魅力的に響き、よき音楽を再発見することも多いものです。

 

テルツギター 写真右

通常のギターより短三度(3フレット分)高く調弦する、主にアンサンブル用の小型ギターです。楽譜は当時から普通のギターと同じに(つまり、あらかじめ移調されて)書かれていますので譜読みに心配はご無用です。弦長は560ミリ前後でだいたい通常のギターとほぼ同じ弦かやや細めの弦を設定します。張力が少し上がることもあってきらびやかな音色となり、それが音程以上にこの楽器のキャラクターのように感じます。ギターデュオやコンチェルトなどのレパートリーがありますが曲によってはこの楽器で弾いて効果的に感じるソロ曲もあるでしょう。

 

リラ(左)とラウテ(右)
リラ(左)とラウテ(右)

リラギター 写真左

竪琴型の古楽器ギター。18世紀ごろ大学などで盛んにギリシャの研究がされたことから世にギリシャ的なものが流行し、その中で作られました。いわゆるアポロンの竪琴のような楽器を音楽できるように実用的に作ってみたというところでしょう。言ってみれば“生まれながらにして古楽器”という何とも幻想的な楽器です。ギターがまだ5コースだったころ、すでに6弦を持っていたようですが時代が進みギターが6単弦になるとほぼ同じ機能ということになりました。それでも19世紀の楽譜には「リラ用」、「リラまたはギターのため」と書かれたものが見られます。表面板の大きさや独特な形状から来るのだと思いますがゆったりと大きく板が振動するような幽玄な音色がします。

 

リュートギター 写真右

丸い胴を持ったリュート型の古楽器ギター。ドイツ語圏ではドイッチェラウテ(ドイツリュートの意)、あるいはマンドーラとも呼ばれていました。この楽器の歴史は古く、バロック時代の6~8コース程度のロングネックのリュートタイプでコラシオーネ、ガリコーン、マンドーラ(この名前が後に残った)などと呼ばれていた楽器の末裔に当たります。

それらの楽器の調弦の一つが後のギターと同じだったりしたことから比較的すんなりと時代を渡ってきたようです。19世紀後半からはワンダーフォーゲル運動などとも相まってさらに寿命を延ばし、20世紀初頭まで作られていました。写真の楽器は11フレットジョイントで割合運動性があります。音色はラウンドバックらしい乾いた感じの少し渋みがある音でいかにも古楽器らしい味わいがあります。

ちなみにこの項に出てくる「マンドーラ」は現代のマンドリン属のそれとは関係ありません。


20世紀、21世紀の古楽器ギター

20世紀初頭に作られた19世紀型ギター
20世紀初頭に作られた19世紀型ギター

居残り型

あまりいい名前ではありませんが、まあしいて言えばこんな感じでしょうか。19世紀ギターと言ってもピッタリ1900年で切り替わるわけではありませんから、20世紀になってもそのままずっと作り続けられていた19世紀型ギターやリュートギターなどは存在しています。そういう楽器についてはわたしはレプリカとは分けて考え、つまりラベルは20世紀ですが19世紀のオリジナルギターと同様に扱っています。名工のものはなかなか良い音がします。特にドイツあたりでは第二次大戦前くらいまでは結構作られていました。

レプリカによる19世紀のテルツギター(左)とギター(右)
レプリカによる19世紀のテルツギター(左)とギター(右)

19世紀レプリカギター、19世紀タイプギター

現代のギター製作家が提供する19世紀型のギターです。完全な復元を目指したものから19世紀のスタイルを活かして現代のギターとは違うテイストを狙ったものまで様々あります。

レプリカの良いところは弾きやすく、気楽に付き合えるところでしょうか。ネックが細すぎて苦労するようなこともありませんし、ナイロン弦でもいい音でよく鳴ってくれます。フレッチングも慣れたギターと変わりませんからポピュラーや現代の曲でも綺麗に響きます。

レプリカギターはこれで19世紀の曲を弾くのも楽しいですがもっと幅を広げ、ルネサンスやバロックあるいはポップスなどでも弾いてみて「この曲合うな」と思えばどんどんレパートリーにしてしまうというアプローチができるのがこれらの楽器の魅力でしょう。

あまり粘らず、すっきりとした透明感のある音を持っていて独奏でもアンサンブルでもモダンスパニッシュギターよりこちらの方が良いと思えるシーンは意外とあるものです。

写真はテルツギター(左)と通常のギター、どちらもドイツ型(シュタウファー)のレプリカです。